親とスポーツ vol.1

「よわいはつよいプロジェクト」には、
日々いろいろなメールが届きます。

先日、 とある親御さんから匿名で
こんなメールが送られてきました。

突然失礼いたします。

息子が高校のとある運動部に所属しています。 現状をどのように受け止めたらよいものかと悩み、 初めてメッセージをさせて頂くことにいたしました。

おととい、 息子がこれまでにないほど
気を落として部活から帰宅しました。 


息子に話を聞いてみると、 練習前にコーチから「やる気の見えない選手が数名いるので、 それらの選手は各自で練習するように」と言われ、 全体練習から外されたそうです

息子は、試合に出られていないので技術面では他選手に及ばないところがあるのは理解しています。 ですが本人が言うには、 先週の練習で「やる気がない」と見られるようなことはなく、 外されたメンバーを見ても、 そのように見受けられる選手は見当たらないそうです。

このようなことは高校の部活動ではよくあることとして受け止めるべきか。 「頑張れ!」と送り出してよいものなのか。 何度も悩んだ末に「よわいはつよいプロジェクト」を思い出して、 メールをさせて頂きました。

外部の方のご意見、アドバイスをお伺いできますと幸いです。

(※内容は編集しています)

このメールを見て、
「むずかしい問題だな」と頭を抱えてしまいました。

これを書いている私には7歳の息子がいて
習い事でスポーツチームに入団しているのですが、

「親はどう関わればいいんだろう?」

と、 よく悩んでいるのです。

コーチやチームのやり方に
疑問を持ってもどこまで口出ししていいのか、
家ではこどもとどんな会話をして
サポートしてあげたらいいのか。
どこまで与えてしまっていいのか‥‥など。

親とこどものスポーツの問題は、
とてもむずかしいと感じていました。

よくゴルフやボクシングや卓球などで
「親=コーチ」のケースがあります。

その場合、 どれだけ強めにコーチングしても
家でフォローできたり親子の絆だったりで、
指導者との信頼関係を築きやすいのかもしれません。
(これがチームスポーツだと
「自分の子にだけ甘いのでは」などと
思われることもありややこしいですが)

けれども、 部活やクラブチームにこどもを預けると
100%その子の姿や様子は見ることはできず、
コーチや環境を信じるしかありません。
「あたり」や「はずれ」の可能性も大いにあります。

さぁ、 このメールを送ってくださった方に、
なんと返事をするのがいいだろうか‥‥

そこで、 「アスリート」 に聞くことにしました。

一人目は、「よわつよ」でおなじみの
川村 慎(横浜キヤノンイーグルス)さん。

二人目は、 現役ラグビー選手でありながら
コーチ業も「二刀流」でやっているという
布巻 峻介(埼玉ワイルドナイツ)さん。

ふたりのプロラグビー選手に
断片的な内容ではありますが、
このメールを読んでもらって
「どんなアドバイスをしますか?」と訊いて、
考えを書いてもらいました。

そしてもう一人、 すこし視野を広げるために、
かつてJリーガーとして活躍されて
現在はユースのクラブチームで
コーチをされている方にも同じように
メッセージを書いてもらいました。
※ご本人の希望で匿名です

それでは、 3人のアスリートの
悩める親御さんのメールへの回答を
ご紹介いたします。

(文 ・ 吉谷 吾郎)

川村 慎

横浜キヤノン イーグルス 所属
プロラグビー選手

 メールの内容のみで断定的に言い切れることはありませんし、 多くの関係者の方々の想いが重なりながら成り立っているのが現在の部活動だと感じておりますのでこれが正しいという明確なアドバイスと言ったものはなかなか難しいですが、 長くトップカテゴリーでプレーしている現役選手として感じたことをお伝えできればと思います。

 はじめに、 こうした話が家庭内で共有されているという事実に日頃から親御さんと息子さんとのコミュニケーションが密に取れており、 素晴らしい関係性を築けているのだなと感銘を受けました。

 少なくとも僕のラグビー人生においては、自分の部活動で何が起きていてどのように感じてどう対処するかと言った話を家庭内で共有した記憶がほとんどなく、 基本的には自分の中で処理していたように思います。 息子さんが直接親御さんに自分から自身の気持ちを吐露したり、 会話の中でどのように対処するかを考え、 実行に移せるような環境は息子さんにとって過ごしやすい環境なのではないかと感じます。

 二つ目に、 このようなことは高校の部活動ではよくあることなのかという点ですが、 「チームや指導者による」という印象はあります。

 今から20年ほど前ですが、 僕が高校生だった時代でも、教えていただいたようなことが行われていたチームもそういうことがないチームもあったと思いますし、 さらに過激な指導が行われていたような話も見聞きしてきました。

 今となってはお互いが乗り越えた逆境として選手たちのなかで笑い話のように共有するエピソードですが当時は本当にキツイ状況だったと思いますし、 それを理由に大好きなラグビーを離れてしまうような子どもたちが出ていても不思議はないかもしれません。

 またトップカテゴリーではさらに実力と結果がものを言う世界なのでより厳しい環境ではあるかもしれませんが、 それとこどもたちの環境を同じように考えるのは僕個人としては違うのかなと感じるところです。 こうした指導方針を僕がこどもたちの指導者になったと仮定した時には取りたくないなと思います。 が、 このような指導方針が手軽に成果を出しやすく、 時間と労力をそこまで掛けずに緊張感と組織力を醸成しやすい手段であるという側面もあるためなかなかなくならない現状も理解はできます。 全くもって賛成はできませんが。

 最後に、 親御さんの「寄り添い支える」というスタンスが僕には非常に大事なことだと感じられました。 思い返せば僕の親も何か助言するでもなく、 こうしろと指示をするでもなく、 そんなことではダメだと拒絶するでもなく、ただ単にそばにいて様子を見て、 干渉するでもなく見守っていてくれたなというのがここまでラグビーをやっていて感じることです。

 もちろん自身の力ではどうしようもない状態にまで陥ってしまう時には周りからのヘルプが必要になることがあると思いますが、 信じて任せてもらっているというその安心感で頑張れることもあると思います。

 なので今親御さんがまさにされているように、 息子さんの主体性や意向を焦らず見守りながら、時に気持ちを共有したり求められれば選択肢を提示したりすることで「寄り添い支える」という環境をさらに実現していってあげてほしいなと感じました。

布巻 峻介

埼玉ワイルドナイツ 所属
プレーヤー兼 コーチ

プロラグビー選手

 親はどうすればいいか?

 実際に親にできることは、 残念ながら、 正直ないと思う。
 できても、 ただ「寄り添う」くらい。

 理不尽なところもあるのかもだけれど、 監督コーチに言ったところで逆効果もあるし、 「がんばってる」のラインも人それぞれで。

 選手であるお子さんのことを考えたとき、 ぼくの結論は「自分次第だよ」。 

 例えばラグビーに「ランパス(註:走りながらパスをつづける古くからあるラグビーの基本的な練習)」っていうのがあるんですが、 よく「ランパスは意味ない」って言われるんですね。 けど、 自分次第でとても大きな意味のある練習に変えられる。 仮に練習外されたりとか内容がひどいとかコーチが悪かったとしても、 「もっといいコーチ」は日本や世界に山ほどいて、 上のレベルを探せばキリはない。 だからこそ、 今は自分のいる場所でやれることを、 やるしかないんじゃないですか。

 今、 ぼく自身もチームの練習とは別に、 もっといいカラダの使い方とかを常に勉強してます。 この子の場合、 練習できないなら帰りに公園で練習すればいいし、 今どうしても輝けないなら大学で輝けばいいし、 ぜんぶ自分次第。 最後はそこに落ち着く。 その状況の自分の捉え方次第。 自分で今できることを探すのがいいと思う。 もし本当にラグビーが好きならば。

 自分はよく学生のラグビー部にコーチングしに行くけど、 環境が整いすぎているのも少し問題だと思っている。 ないところから工夫して生み出す力を培っていかないとダメじゃないかと。 むしろ今の時代は、 環境なんてわるいほうがいいと少し思っているくらい。

 コーチや環境のいいところにいけば「これで成長するのか」と思うし、悪いところに行けば「このままじゃダメだ」と思うし、だから結局は自分次第。

 勝ちたいとか、 試合に出たいなら、 やれることやるしかない。 コーチや環境が整っているからと言って頑張れるわけでもないから。

 それは、 自分自身があんまりいい家庭環境、 境遇ではなかったからそう思うのかもしれない。 いや、 たくさんご飯を食べさせてもらっていたし、 一度も自分のやりたいことを否定されたことはないんですが。 でもいつも「親に迷惑をかけちゃいけない」と思っていた。 今、 自分のこどもにも自分と同じ思いはさせたくないと思って与えすぎてしまっていることを反省しているくらいです。

 自分の周りの世界のトップクラスの選手をたくさん見ていても、 中高のあいだ理不尽な練習ばっかりだったとか、 大雪だらけで練習できない環境だったとか、 それでも腐らず地味にやってきた人で、 のちのち強くなる人をたくさん見てきた。

 高校で部員が多い強いチームにいると優勝するかもしれないけど、 それはあくまでチームで優勝しているだけで、 個人個人のスキルやマインドは積み上がっていない可能性もある。 自分は高校で全国優勝した身ですけど、 今、 輝けていなかったら意味がない。 今となっては花園で優勝するよりも、 日本代表でもっともっと活躍するほうがよかったと思うこともある。

最後に個人的に言いたいのは、 そのスポーツだけは嫌いにならないでほしいな。 スポーツをはじめた子たちが、 なるべくみんなつづけてほしい。

 今は大変だろうけど、 でも、 君にもできること、 あるんじゃない?

匿名 元Jリーガー
現・クラブユースコーチ

 (少し指導者からの目線になっているかもしれません、 という前提で)

 お子さんとお母さん、 頑張ってらっしゃると思います。

 子供が悩みを親に打ち明けられる家庭環境ができているのは良いことですし (僕自身は親にサッカーの悩みを相談したりしたことは子供の頃から一度もありません‥‥) 、 お母さんはある程度客観視できたうえで寄り添おうとされているのはすばらしいと思います。

 このメールの内容をお読みすると、 お子さまとそのお母さまの視点での話しかないので、 『こんなコーチはおかしい』 『このコーチが悪い』 『パワハラだ』というふうな見方からスタートするのは少し危険なのかなと思いました。 子供も親に全て正直に話すわけじゃない(自分に都合の悪い話は省いたり)ですしね。

 もちろんどんな状況であっても、 練習から外す、という行為は絶対にいけないことだと思います。

 ただ、やる気がないと見られるようなことはなかった、そのように見受けられる選手は見当たらない、というのは選手の主観であって実際に周りの人から見てどうだったかわからないので普段見てもらっているコーチに本人が聞きにいってもいいのではないでしょうか。

 もし選手とコーチでそういうコミュニケーションがとれないチーム状況ならば、保護者の方が話を聞きにいってもいいかもしれません。

 そうでないのなら自分で疑問に思うことをコーチに聞きにいって、解決するのがベストなのかなと思います。

 最後に、上記の件とは関係なく「メンバー外」や「怪我」などは競技としてプレーするうえでは必ずあることなので、問題を分けて考えたほうがいいように感じます。


3人のアスリートのみなさん、
温かく真剣なことばをありがとうございました。

そして、 ぼくが強く思ったこと。

「アスリートってすごいな」

この「よわつよ」に過去に登場して
さまざまな経験を語ってくれたラグビー選手の
堀江翔太選手姫野和樹選手も、
はたから見れば 「超トップスター」 で、
キラキラ輝いて見えます。

けれど、 どんな選手でも
悩まない、 苦労していない人はいない。
みんな見えないところで、
必ず、 絶対に、 100パーセント、
壁を乗り越えようと闘っている。

その経験を語って伝えていくことは、
まさに社会におけるスポーツの価値であり、
アスリートの価値なのでは、 と思いました。

この件については、 「答え」はなく、
人はみんな、 「気になるところ」も違います。
そして、 「よわいはつよい」ということばのように
加害者は実は被害者だったりもします。

これを読んでいただいたあなたは、
どんなことを考えましたか。

ぜひご感想などメールやSNSで教えてくださいね。

→感想・意見を送る