実は、はじめは村上さんに「カミングアウト」のことをお訊きしようと思っていました。
15人制ラグビー女子日本代表の村上さんが「カミングアウト」という勇気の要る行動をしたことは、「よわいはつよいプロジェクト」が掲げている「誰もがよわさをさらけ出せて、よわさを受け容れられる社会」という理念を体現していると思ったからです。
ところが、お話を聴いているうちに、カミングアウトはあくまでひとつの表現であり、村上さんが本当にやりたかったことは「自分らしくあること」を世の中に伝えることだったのではないかと思いました。
自分の弱さと何度も向き合ってきた村上さん。 そして「大袈裟じゃなく、ラグビーが命を救ってくれた」と話す彼女へのインタビューを通じて、「スポーツの力」についてについてお伝えできたらと思います。
(取材: 川村 慎・吉谷吾郎 / 文:吉谷 吾郎)
※このインタビューは6月15日夜9時30分からZOOMでおこないました。
カミングアウト
することが正しい、
ではない。
吉谷
はじめまして。 今日はありがとうございます。
村上
こちらこそ、ありがとうございます! 実はついさっきまで別のイベントにオンライン参加していたんです。
川村
村上さんとは、選手会のことをきっかけにそのあともZOOMでおしゃべりしたりの仲だけども、今もずいぶん忙しそうだね‥‥ そんな中、こんな夜遅くにありがとう。
村上
むしろ、ありがたいです! 実は「よわいはつよいプロジェクト」を初めて見たとき、沁みたんです。 LGBTうんぬんの前に、こういうプロジェクトがラグビー界から立ち上がったことに。
吉谷
そう言っていただけて嬉しいです。 さて、村上さんはバスケット、ラグビーと多くのスポーツをトップレベルで経験されています。 その中でも、小学校のときに野球をやってリトルリーグで男子に混じって日本代表だったとか。
村上
はい。 ピッチャーだったんですが、「女子」ってだけで周りの男子からバカにされていて、そういう奴らからストライクを取ると嬉しかったですねぇ。 悔しさでガムシャラに投げていたのを憶えています。 「逆境をパワーに変える」っていうのは、小さいころからやっていたんだと思います。
川村
そして、高校時代のバスケット部では、壮絶な経験をされてるよね。
村上
端的に言えば、女性と付き合っているのがバレてしまって、周りからいじめのようなことをされましたし、部活の先生たちからも今では信じられないような言動をたくさん受けました。
吉谷
なんと言えばいいか‥‥ それはつらかったですよね‥‥。
村上
我慢するのがもう限界、というところまでいきましたね‥‥。 コートの上では、とにかく「ミスしないように」という気持ちでやっていて、監督の顔ばっかり見ていました。 自分の家では、しゃべれなくなりました。 なにも言葉が出てこないんです。
川村
言葉が出てこなくなるまで追い込まれるって‥‥。
村上
LGBTのいじめを高校で体験しちゃったので、大学ではずっと「本当の自分」を隠しつづけて、ひたすら練習しまくって気を紛らわしていました。 なので、大学では一切悩まなかったんです。
吉谷
「言わないほうがラクだ」と思ってしまいますよね。
村上
まさにそうでした。 だから、すこし前までは、LGBTの話題がニュースになるだけで、「やめて!」って思っていました。 それにフタをして生きている人がいるのに、カミングアウトを促すような社会の風潮に違和感を抱いていたんです。
川村
カミングアウトを促す風潮への違和感。
村上
はい、「カミングアウトすることが正しい」ではないです。 カミングアウトしていない人が悪いみたいだし、かつての私のようにそういう選択をしないで自分らしくいられる人はいますから。 ただ、私は何者であるかを社会に発信して、助かる人がひとりでもいると思って公表しました。 単純に「もう我慢できなかった」っていうのもあるんですけど。
吉谷
それほど学生時代につらい思いをしてきて、どうやって乗り越えてこられたのでしょうか。
村上
今思えば、どうして乗り越えたんだろう、乗り越える必要なかったよな、と思っています。 高校時代は、何度も電車に飛び込もうと思いました。 でも、お母さんの顔が頭によぎって‥‥。 そこを踏ん張ったから、なんとか耐えられるようになりました。
川村
そうだったのね‥‥。
村上
今はLGBTのことをたくさん取り上げていただいてますけど、私が本当に社会に発信していきたいのは、指導者によるいじめみたいなものに声を上げたいです。 益子尚美さんのやられている「絶対に怒ってはいけないバレーボール大会」は、素晴らしい取り組みだと思います。
吉谷
スポーツのことは嫌いにならなかったんですか。
村上
ならなかったですね。 スポーツは大好きだったんですよ。 なんでかわからないんですが、切り替えられるんですよね。 バスケのコートの中に入れば、「好き」とか「嫌い」とか利害関係がなくなっていたというか‥‥ だからスポーツに救われていたんじゃないかな、と、今振り返ってみて思う自分の解釈ですが。 でも、知らないあいだに精神的にはボロボロになっていたと思います。
つらいことを
「つらい」って言える
ようになろう。
村上
そういえば、私、ラグビーやってなかったら死んでたんですよ。
川村
ん、どういうこと? (笑)
村上
2020年の11月、練習中にタックルをして胸の骨挫傷の怪我をしてしまったんですが、ちゃんと検査をしたら副腎の神経の先に4cmの腫瘍が見つかったんです。 それが10cmになっていたら死を宣告されるところだったみたいで‥‥。
吉谷
え‥‥!
村上
今年の3月に手術したんですが、正直、カミングアウトとかしてる場合じゃなかったんですよ(笑)。 お母さんにも「それどころじゃないだろ!」って怒られましたし。
川村
それは、間違いない。
村上
だから、ラグビーやってなかったら死んでたんですよ。 ラグビーやっててよかった。 命も助けてもらっていて。
吉谷
なるほど、ある意味でスポーツの価値、ですね‥‥ 命すら救うという。 話は戻るのですが、この「よわいはつよい」という場で、村上さんがいちばん言いたいことってなんですか。
村上
自分の本心に耳を傾けること。 私はつらいことがあってもずっとシカトしてきていた。 でも、つらいことはつらいでいいんだよ、って言いたい。 だからつらかった話もして、自分から見せていくっていう意味で、カミングアウトをしました。 カミングアウトしたことを「すごいね」ってたくさん言われるけど、ぶっちゃけそういうのはどうでもよくて、「つらいことを『つらい』って言えるようになろうよ!」っていうのが、私がいちばん言いたいことなんです。
吉谷
自分の心の叫び声にちゃんと従う、というか。
村上
はい。 究極的につらくなってくると思考停止するというか、なにも考えないで突き進んじゃうことがあるんです。 そういう人ほどいつのまにか心がボロクソになって、大変なことになって、最悪の場合は死に至る。 だから、ちゃんと「本当の自分」とか「自分らしさ」を意識してやらないとダメだと思います。
吉谷
村上さんの思う「自分らしさ」って?
村上
自分が「好きだ!」って思っているものを、そのまま「好きだ!」と言えること。 たとえば、髪型だってそう。 周りがどうとか気にしないで、自分がいいと思う髪型をすること。
川村
社会でつくられた暗黙の「正解」みたいなものがありますよね。 スポーツの現場だと、「リーダーは最初にグラウンドに行くべき」とか「ベテランなら若手にアドバイスすべき」とか。
村上
まさに。 私がそう考えるようになったのは、ラグビーを通じて外国人選手と関わったというのが大きかったんじゃないかと思います。 外国人って誰になにを思われようが関係ないというか(笑)。 その人たちはみんな自分の好きなことをやっていて、そういう人たちが自分の存在も認めてくれるのは大きな気づきになりました。
吉谷
どうして「好きなことをやる」ってむずかしいムードがあるんでしょう?
村上
小さい頃から「これが正解」というものを刷り込まれるような教育を受けてきているからだと思うんですよね。 それで、その正解や型から外れている人はダメ、みたいな風潮が好きを好きって言えなくしている原因だと思うんです。 「やりたい!」っていうものの選択を狭めているというか。
吉谷
なるほど。
村上
極端な話、みんな留学に行けばいいと思うんです。 日本の「体育」とか「部活動」っていうシステムも、大人になったときの人格にまで影響するようなものだと思います。 自分の頭で判断できないような選手が生まれやすくなると思うんです。 あと、コーチとか先生が怒りすぎだし(笑)。
川村
いろんな価値観に触れる機会が少ないと自分も思う。 実は小学校のとき香港に住んでいた経験があるんだけど、各地域にラグビークラブがあって、まずみんな年齢がバラバラ。 さらに人種も宗教も違う、とにかく「ラグビー」という共通点だけでみんなが繋がっていた。 これこそスポーツだと思ったんだよね。 日本に戻ってきたら「さぁ、みんなで一緒に!」っていう感じに驚いたのを憶えてる。
村上
わかります、わかります。 日本のいいところもあるんですけどね。
川村
最後に、村上さんにとって「つよい人」ってどんな人?
村上
「よわいはつよい」ということばの通り、自分のよわいところを見せられる人が、つよい人だと思います。 周りの人も、その人を助けられるし。 姫野選手の記事、読みました。 彼のことばや行動は素敵だし、本当の意味でつよい人だなって思います。
吉谷
では、夜も遅いので、今日のこのへんで。 ありがとうございました!
川村
村上さん、貴重なお話をありがとう!
村上
こちらこそ、お声がけいただき嬉しかったです!
(おわります)